夏の匂い

少し前の朝、ごみを出しに行った時のことだ。前を国道が走っているのだが、朝の通勤時間帯で車の往来も激しい。ごみを置いての帰りにその流れを見ていたら、突如としてムワーっとした蒸し暑い空気が押し寄せてきた。ところがこの匂いがどこか懐かしい。少し考えて、そう言えば子供の頃の夏はいつもこんな匂いがしていたのを思い出した。そこら中に響き渡るセミの声。ようやく夏休みが訪れて、解き放たれた心。6週間という長い休みをどう過ごそうかと考えただけで心が躍る。宿題の計画を立てるのも案外楽しみだった。

そう、なんか久しぶりの夏らしい匂いを嗅いだのだ。あの頃はエアコンはもちろんのこと扇風機だってない。家に居る時はランニングシャツにパンツ一枚といったスタイルだ。そう言えば蝿もたくさんいた。祖母に頼まれて毎日何十匹もの蝿を蝿たたきで叩き落した。いや叩き潰した。まさに丹下左膳鞍馬天狗になったかのような気分だった。夜は蚊帳をつって寝る。これがまた子供ながらに怖さを感じたものだ。その頃の夏の映画と言えば決まって怪談だった。その映画によく蚊帳が登場するのだ。そしてその脇に幽霊が恨めしそうにたたずんでいる。子供のごいさんはどうしても蚊帳の外が気になってなかなか寝付かれなかった。

冷蔵庫もなかった。スイカは井戸水で冷やすのだが、これが本当によく冷えて美味かった。あの頃は食べ物の保存ができなかったから毎日の食事は大変だったろう。当然家では氷は作れない。夏になると近くのかき氷屋に毎日通った。毎日と覚えているくらいだから確かに安かったのだと思う。もちろんイチゴかメロンかそれにレモンやスイというシロップが単にかけてあるだけだ。でも本当に美味しかった。

海まで近かったから毎日のように海水浴に行った。プールは日立製作所の工場の関係で一つだけあったのだが有料だった。それでも伯父さんのつてでたまに無料券が手に入る時があった。この時はやっぱり嬉しかったし、毎日のように行ける子がちょっぴり羨ましかった。海はやっぱり真っ昼間に行くのが好きだ。砂浜に寝っ転がってあの真っ青な空を見上げる。あの底なしの大空をね。そうすると心が大きくなったような気がしてくる。そして大きな夢が膨らむんだ。

今までもこの匂いって何だろうなんて思うことがたびたびあった。その答えを探し求めていくと小学校ぐらいまでに遡る。何十年と年を取ったのにあの頃の匂いって意外と忘れていないんだ。思い出って写真で代表されるように見たことやしたことが記憶されるという印象が強いけど、こういった匂いというのも十分に思い出になるのだと改めて認識した。考えてみれば、おふくろの味なんていうのもある。これも思い出の一つかな。

何気ない匂いへの思い。またすぐに忘れてしまうから書き留めておくことにした。

 

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