パパの入院
先日パパが入院した。この「パパ」とは妹の旦那さんのこと。いつ頃からかはっきりしないけど妹がパパと言っているのを何度も聞いているうちにそれが自分にとっても彼の代名詞になってしまった。そのパパが入院して手術を受けることになった。5月25日金曜日の朝に妹から電話がかかってきた。めったにかかってこない電話だけに初めは母に何か起きたのかと思ったのだが、実はパパが昨夜から激しい痛みを訴えて救急車で運ばれ入院したという。
パパが入院するのは今度で4回目になる。入院してすぐに見舞いに行った時は、けっこうショックなようでだいぶ落ち込んでいた。自分の不甲斐なさを嘆いていた。こればかりはしょうがないよと慰めるのだがなかなか元気にならない。それでも2日ほどおいて2回目のお見舞いに行った時は、だいぶ落ち着いたようで顔色も良くなっていて安心した。
普通ならすぐにでも手術なのだろうけれど、パパは10年ほど前に心筋梗塞の恐れがあって心臓の血管を広げるという手術をやった。それからずっと血液を固めないための薬を飲んでいるのだが、その関係で1週間ほど様子を見てから手術になるという。そいうことで手術が行なわれたのは1週間後の6月1日だった。手術そのものは簡単で短時間で無事に終わり、その後の痛みもないようだった。
手術後の帰りに妹がお昼をおごるから食べて行けという。食べたいのを決めて頼もうとすると「遠慮しないでもっと高いのにしろ。」という。そんな会話をしていると妹がどれくらい喜んでいるかがよく分かる。それは妹がどれだけ不安で緊張していたかという証しなのだと思った。妹は結婚と同時に会社を辞めて専業主婦となった。働いてばかりの母親を見ていてそれは妹の憧れだったに違いない。そしてそれからはずっとパパに頼ってきた人生だったから。
少しだけ昔を振り返ると、実はパパとは結婚式当日まで会っていない。憎んでいたとは大げさだが多分に彼のことを嫌っていた。結婚して妹を連れ去ってしまうそんな思いと、家に来ては父親と楽しそうに酒を飲んでいるのが気に入らなかった。それが初めての孫ができる直前に父が亡くなり自分がその代わりを果たすことになって、いつまでも子供のような気持ちではいられなくなった。
いざ彼と話をしてみると、お互いに打ち解けるのは実にあっけなかった。それからは父に代わって二人でよく酒を飲むようになった。同い年だから話もよく合った。パパはごいさんのことをあんちゃんと呼ぶ。それは妹が小さい頃からずっとそう呼んでいるから。では自分はどう呼べばいいのか。そこで妹の言いようを真似してパパと呼ぶようになったのだと思う。
パパは妹のために一生懸命に働いてきた。「自分には働くしか能がないから」と言うけど、そんなことはない。会社では、上司からも部下からも信頼され人気もある。自分もずいぶんと助けられてきた。傍にいるだけで安心できる、そんな素晴らしい人間性の持ち主なのだ。そんなパパを見つけて一緒に歩んできた妹は、だからずっと幸せだった。
6月11日月曜日、パパは元気に退院した。