ちょっとした出来事
水曜日にちょこっと嬉しくなる出来事があった。すでにうちの学校は春休みに入っていてこの日は授業はないのだが、勤務日なので出勤しなければならない。2時間ほどの勤務時間を机の片づけなどして過ごす。そしてその帰り道のことだ。途中のスーパーで買い物をした時に財布を出したのだが、しまった時にリュックのチャックを閉め忘れたのだ。それを知らずにそのまま歩いていた。何かの弾みで中のものが落ちてしまう可能性もあっただろうに。
伊勢丹のビルを抜けて商店街に入ったところで、後ろから「ごい〇〇先生」と大きな声で呼ぶ声が聞こえた。何だろうと思って振り返ると見た顔の男の子がニコニコして立っている。確かに1年生なのだが名前が出てこない。大急ぎで思い出そうとしていると、「リュックのチャックが開いています」と言ってきた。慌ててリュックを降ろそうとしたら、中身がドサッと一斉に飛び出してきた。人通りの多い商店街。その子はさっとしゃがんで拾い集めてくれた。
リュックにすべてを戻してもう一度その子を見てようやく思い出した。授業の時は眼鏡をかけている。窓側から4列目の前から2番目に座っていていつもきちんとノートをとっている真面目な子だ。大人しそうな子だからこんな街中で大きな声をかけてくるなんて想像できない。どこでこのリュックのことに気づいたのだろう。そしてそれを背負っているのがごいさんだということも。声をかけるかどうか迷っただろうか。いつも大人しいその子の様子を思い浮かべると、声をかけるのにもけっこうな勇気が要ったのじゃないかな。顔を赤くして、授業では見られない素敵な笑顔だった。
こうして声をかけてもらえることってありがたいことだ。先生として認めてもらえたように思えるから。部活の帰りらしいのだが、お礼を言う間もなくすぐに去って行った。講師ということで、今までのようには生徒とつき合えないだろうと思っていたけど、そんなことはないんだね。改めて思った。この日は久しぶりに先生らしい気持ちを取り戻せたようで、なんだかとても嬉しくなった。開いたリュックを背負ってる姿は何とも恥ずかしいのだけど。
ごいさんは先生と呼ばれるのが好きだ。もう昔のような時代じゃないし、先生と呼ばれるほどのものでもない。そんな感じで、先生と呼ばれることを嫌がる先生もけっこういる。最近では先生の評価もずいぶんと下がっているしね。でもごいさんは先生という響きが好きなんだ。だから先生と呼んでもらえるように、自分なりに頑張ってきたつもり。そう、「ごい〇〇先生」と呼ばれるたびにしっかりしなきゃって思ってきた。
今回の出来事を通して、正規の先生じゃなく、講師という身分でも先生は先生なんだって、そう思えるようになった。これでまた頑張っていける。
勤務校の桜の木。いよいよ桜が咲きだしたね。