芦ノ牧温泉の仲居さん
さて今年の呑兵衛旅行は先日ご報告した通りだが、今日は番外編ということで芦の牧温泉宿で出会った仲居さんのことを書いてみようと思う。
名所などを見て回るのが旅の楽しみではあるが、それと同じくらいに楽しみなのが泊まる宿ではないだろうか。どんなお料理が出てくるのか。温泉はどんな感じか。露天風呂はどんな造りだろう。そして何より仲居さんはどんな人だろうってね。
以前にあの加賀屋に泊まった時の仲居さんの応対ぶりの見事さにはみんなで感激したものだ。上品な立ち振る舞い。多くを話さないが、我々の問いかけには瞬時に的を射た答えを返してくれる。才能もあるのだろうけど、相当に訓練されていると思った。今の加賀屋があるのはその施設がどうのこうのではなく、こういう仲居さんの存在があればこそだと理解した。
またある宿では、お話好きで調子のいい仲居さんがいた。喋ってばかりで仕事が遅れ気味。飲み物を頼んでも寄り道していてなかなか持ってこない。この時はがっかりだったなあ。一般的にはどこの仲居さんもしっかりしていてそつが無いという印象だけどね。
さて部屋に案内してくれた仲居さんは、入ったばかりという感じの若いお嬢さんだった。お爺ちゃんたちはこのような若い子を見るとめっぽう話しかけたくなるものだ。そんな様子を察知してか必要以上のことを話さないから、取りつく島がない。明らかに外れの客を掴んでしまったかのような悲しそうな顔にも見える。
7時半に夕食の会場に出向くとあの仲居さんがいた。相変わらずのお澄まし顔だ。恐る恐ると乾杯の写真を撮ってほしいと頼むとさすがに快く応じてくれた。それに乗じてI坂さんが「坂本冬美に似ているって言われたことはありませんか」という質問を投げかける。「いいえ」という返事にすかさず「演歌の歌手で知っている人は」と聞くと「石川さゆり」という名前が挙がった。そこから彼女がI坂さんと同じ青森の出身ということが分かって、ようやく会話の糸口が見つかった。こうなれば占めたもので、みんなこの時とばかりにやんやと質問を浴びせかける。時々彼女にも笑いが見られるようになったが、この笑い方が照れ隠しすることなく大胆に笑うのでこれまた大いに気に入るところだった。仕事じゃ無下に断れないのを知っていてまるで悪代官みたいなお爺ちゃんたちにつき合わされて、さぞかし疲れたことでしょう。
食事を終えて部屋に戻る途中で、その子を話題にしてI坂さんが「『いつまで呑んでやがる、いい加減に終われよ、この爺ィ。』と思いながら給仕していたんだろうなあ。」と、ごいさんに話しかけたところで、なんとご本人が自分たちのすぐ後ろを歩いているのに気が付いた。これに驚いたI坂さんはたちまち廊下に仰向けにひっくり返った。陰口は言ってはいけないということですね。
たっぴちゃん(仮名)というその子は、結果的にはとても感じの良い子だった。5年前に青森から出てきたということだから23歳前後かと思うけど、ぜひこれからも長く勤めて素敵な仲居さんになってほしい。そしてその頃、また会いに行きたいね。