奥さん、第九を歌う
昨日新宿のオペラシティで行われた「がん患者さんが歌う春の第九」というコンサートに行ってきた。歌うのは80人のがん患者さんたちと医療者や家族の方たち、総勢145名だ。演奏は日本フィルハーモニー交響楽団。前にも奥さんのことは記事に書いたが、今はがん研究のお手伝いの仕事をしている。その研究会が企画したということで実行委員会のメンバーとして関わりを持ったようだ。裏方の仕事をしているうちに自分も歌ってみたくなったのか。うちの奥さんもごいさんと似たところがあって興味を持ったらやってみないと気が済まないようだから。
練習は去年の6月頃から週に1回のペースで始まった。毎週仕事始めの月曜日だ。仕事を終えてお台場にある職場から新大久保や茗荷谷にある練習会場へと足を運ぶ。練習時間は2時間余りで、家に帰ってくるのはだいたいが10時を回る。ごいさんから見るといかにも疲れそうに思えるのだが、うちの奥さんはこういった好きなことには何の苦もないようだ。それにすぐに何人かのがん患者さんたちとも知り合いになって楽しく過ごせているようで疲れを知ることもほとんどなかったみたい。以前にNHKで取り上げらてこの仲の良い患者さんがインタビューを受けていた時、ちゃっかりその側にいてにこにこしてテレビに映っていた。
ともあれそんなわけでうちの奥さんもそれなりに楽しんで練習に励んできた。時々家で奇声を発していて少しおかしくなったかと思える時もあったが、ドイツ語を覚えようと必死だったみたいだ。一時は平日の夜のリビングはひたすらにドイツ語が流れているそんな状態だった。少し前までなかなか覚えられないと愚痴っていたけど、もう大丈夫だろうか。ごいさんと似ている所があって先のことを考えずに飛び込んでしまって、自分を追い詰めている。なんか自分を見ているように思う時もある。
練習が終わって帰ってくるとたいがいがん患者さんのたくましく生きているという話になる。彼女がそんな患者さんたちから元気をもらっていることがひしひしと伝わってくる。そして今は彼女自身が歌うことを楽しんでいるといったようすだ。お喋りな彼女だから親しい仲間も何人かできたようで、これが終わってからのおつき合いも楽しみにしているようである。
実際なかなか聴きごたえのあるコンサートだった。がんを告知され、場合によっては余命も宣告され、そんな時にどうしていいか分からない。そんな中で何か打ち込めるものをと思って参加した患者さんたちがほとんどのようだ。人生の素晴らしさを歌う第九の歌詞は彼らの心情にもあっているのだろう。まさに今を生きているという喜びの歌。これからも懸命に生きようとするそんな思いが伝わってくる。
世の中にはたくさんの方がそういう状況にあるのだろうけれど、その人たちもぜひ頑張って生きてほしい。そんな思いが自然と心に浮かんでいた。素人の集団だけどその歌いっぷりは本当に見事で素晴らしかったと思う。自分のこれからの生き方のお手本にもなる。ちなみに今日の奥さんの声はかすれていて声が出すのが辛そうだ。